著者:相沢沙呼
出版社:創元推理文庫 発売年2009年
今年はコロナウイルスの影響でなかなか行動範囲にも制約が出てしまい、気持ちまでも窮屈な思いを少なからずしてしまうこともあるかと思います。
しかし、そんな状況にとっておきのものが読書です。何と言っても読書をすることにより、じぶんの生活範囲外のことを擬似体験することが可能になり、自分は動いていないにもかかわらず、別世界へ行ってきたかのような不思議な爽快感さえ得られます。それはただ”見る”という受動的行動ではなく、”読む”という行為から、自分の頭で想像していく、といったように能動的行動になるからだと思います。今回は読書が好きな方は勿論、あまり読書はしない、苦手という方にも、まず手に取りやすいオススメの本を紹介したいと思います。
今回紹介するのは、
「午前零時のサンドリヨン」(創元推理文庫)著者:相沢沙呼
という、ミステリーとマジックを掛け合わせた作品です。
読書が苦手な理由としてよく挙がるのが、本を読んでいても集中力が続かない、眠くなる、といったものです。
そこで、ジャンルとしてオススメなのが、ミステリーやサスペンスものです。
実際、手に取って読み始めてしまえば、浮上してくる謎や、不可解な出来事、交差する登場人物の言動や行動などに、巧みな伏線が張られてあり、スリルと好奇心が刺激され、続きがどんどん気になり、ページを進める手が止まらず、気づいたらその小説の世界へどっぷりと浸かってしまっていた、ということが多々あります。
そして今回のポイントは、マジックがこのミステリーに上手く掛け合わされていること。マジックも何気なくマジシャンの行動を見ていると、目の前で起こる摩訶不思議な現象がどんどん展開されていき、気づいたら思いっきりハマっていた、夢中になって魅せられてしまった、という経験はないでしょうか。
また、マジックは手の動きが最も肝心なようでいて、実は巧みな言葉使いで相手を惹き付ける心理戦でもあるといえます。
その点が言葉や文章で表現する小説の中で、作者の技量もさながら、第19回鮎川哲也賞を受賞した作品だけあって、ミステリーとマジック、どちらかが半端になることもなく、二つの要素が見事に相乗効果となり、読者を作品の世界へ誘ってくれます。
物語は、綺麗な容姿ではあるがクラスでは内気で寡黙な女子校生、西乃初(ヒロイン)。レストラン・バー『サンドリヨン』で、マジシャンとしてプロ並みのマジックを披露する彼女の意外な一面を知った、同級生の須川君(語り手)は次第に彼女に惹かれていき…
といったところから始まります。
多くの方が馴染みのある、ボーイ・ミーツ・ガール学園青春連作短編集です。
4つの短編ではありますが、全編通して伏線が丁寧に張られており、そのさりげなくとも緻密に練られた筆到は、審査員にも高く評価されています。
一見、若い人向けかな、と思われがちですが、読んでみると意外にも、人間の持つ陰の部分、感情やそれに付随する社会的問題を取り上げており、自分の学生時代を懐かしむ描写もありつつ、大人になった今でも考えさせられる内容となっています。
また、ミステリーによくある、グロい描写、刺激の強い表現が苦手、という方でも、この作品では殺人事件などではなく、日常の謎を取り扱っているので、気負うことなく読み進められるかと思います。
また本書には、マジックにまつわる用語が随所にちりばめられています。ヒロインが作中で披露するマジックの名称や、世界の有名マジシャンの名前が挙がったり、それらのエピソードを物語に織り込んでいたりします。
マジックに詳しくない読者でも楽しませてくれますし、それでいてマジックに精通している読者にとっては、心地よさを感じられることでしょう。
推理にどんな関係があるのかを考察しながら読み進めてみるのも然り、また読了時に調べ、照らし合わせながら知識を深めることが出来るのも、読書の醍醐味です。
マジックという煌びやかに見える魔法の裏側にある儚さ、それは何か日常の私たちの現実世界を生きていく上でも、何か重なって見えるものがあります。
本書を開いてこのミステリーと奥深いマジックの世界を擬似体験してみてはいかがでしょうか。
気づけば作者のイリュージョンにかかっているかもしれません。
この記事のライター
ライター名:kinomi
経歴:フリーライター。おうち時間をこよなく愛す。映画とコーヒーと固ゆで卵が好き。